EP-40を手に入れてから、「ダブ」という言葉が気になり始めた。本体に「dub siren」というボタンがある。説明書に「riddim」という単語が頻繁に出てくる。調べ始めたら、自分がまったく知らなかった音楽の歴史がそこにあった。
ダブ(Dub)とは何か
ダブとは、1960年代末〜1970年代のジャマイカで生まれた音楽ジャンルだ。レゲエのリミックス手法として始まり、やがて独自のジャンルとして確立した。
もともとはこういう経緯だ。当時のジャマイカのレコード産業では、シングル盤のB面に「バージョン」と呼ばれる、ボーカルを抜いたインストゥルメンタル・トラックを収録するのが慣習だった。このバージョン制作の過程で、エンジニアたちが「ミキサーをいじって音を変形させる」実験を始めた。ボーカルを突然消す、特定の楽器をフェードアウトさせる、エコーを深くかける。その実験的な処理を施したトラックが「ダブ」と呼ばれるようになった。
ダブの開拓者たち
ダブを語るうえで外せない人物が二人いる。
キング・タビー(King Tubby)
本名オズボーン・ラドック。もともとはラジオ修理工だったが、その電子機器の知識を活かしてレコーディングスタジオを構えた。ミキサーをリアルタイムで操作してエコーやリバーブを生演奏のように操る手法を確立した。「ミキシングボードを楽器として演奏する」という概念を作った人物だ。
リー・スクラッチ・ペリー(Lee “Scratch” Perry)
プロデューサー・サウンドエンジニアにして、ボブ・マーリーのプロデューサーでもある。自身のブラックアーク・スタジオで実験的なダブ制作を続け、ギターのリフをテープに貼り付けて逆回転させたり、スタジオ自体をひとつの楽器として扱う奇才的な手法で知られる。
ダブサウンドの特徴
ダブを聴いたことがない人に言葉で説明するのは難しいが、主な要素はこうだ。
重低音(ベースとドラム)
「riddim」、つまりリズム・セクションが主役だ。ベースラインが極端に太く、前に出てくる。他の楽器はその周辺で響く。
ディレイとリバーブ
テープエコーを使った長いディレイが特徴的だ。音が空間の中に溶けていくような残響感がある。スネアを一発叩くと、それが洞窟の中で何度も反射するように尾を引く。
ドロップアウト
突然ボーカルが消える、特定の楽器が抜ける、という「抜き差し」の編集がある。音が消えることで逆に空間が広がる感覚、「間」の使い方がジャズとはまた違う独特の美学だ。
ダブサイレン
レゲエのサウンドシステム(野外DJシステム)では、ダブプレートをかける際にサイレン音を鳴らして盛り上げる文化がある。EP-40に搭載された「dub siren」ボタンは、まさにこのサイレン音を再現している。
ダブが後世の音楽に与えた影響
ダブは現代音楽の多くのジャンルに直接影響を与えている。
- ヒップホップ:サンプリング手法とDJカルチャーはダブのリミックス文化と地続きだ
- ドラムンベース・ダブステップ:重低音とビートの作り方はダブの直系と言える
- ポストパンク:The ClashやPublic Image Ltd.(ジョン・ライドン)はダブの影響を公言している
- エレクトロニカ:スタジオをひとつの楽器として扱う発想は現代のプロデューサーに受け継がれている
入門に聴きたい3枚
ダブを初めて聴く人に勧めるなら、この3枚から入るといい。
King Tubby Meets Rockers Uptown(Augustus Pablo / King Tubby, 1976)
ダブの教科書と言える一枚。マリンバのような哀愁あるメロディカと、タビーのミキシングが絡み合う。「ダブとはこれだ」という音がここにある。
Super Ape(Lee “Scratch” Perry & The Upsetters, 1976)
リー・スクラッチ・ペリーの代表作。ジャングルの中にいるような異様な空間感覚が体験できる。
Blackboard Jungle Dub(The Upsetters, 1973)
商業リリースとしては世界初のフルダブアルバムとされる。ダブという概念が生まれた瞬間の空気がある。
EP-40はダブへの入り口だった
機材を手に入れてから音楽を知る、という順番は珍しいかもしれない。でも俺にとってはそうだった。EP-40のdub sirenボタンを押したことで、ジャマイカの70年代のスタジオで何が起きていたかを調べ始めた。
音楽の入り口はどこにあるかわからない。機材でもいいし、映画でもいいし、偶然流れてきた曲でもいい。EP-40は、俺にとってダブという深い穴への入り口だった。
この一枚から始めてみてほしい
King Tubby Meets Rockers Uptown – Augustus Pablo(Apple Music)
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