「OP-1、使わないから渡すよ」と言われた時、正直ピンとこなかった。Teenage Engineeringの機材というのは知っていたが、OP-1が何者なのかはわかっていなかった。受け取って、触って、調べたら、とんでもないものをもらったと気づいた。
OP-1とは何か
Teenage EngineeringのOP-1は、2011年に発売されたポータブルシンセサイザーだ。シンセ、サンプラー、4トラックテープレコーダー、MIDIコントローラー、さらにはFMラジオまでを一台に詰め込んだオールインワンの機材で、発売当初から「ポータブルシンセの到達点」と呼ばれた。
Jean Michel Jarre(電子音楽の巨匠)が「どんな時代の楽器と比べても、OP-1は完全にタイムレスな価値を持っている」と絶賛し、Trent Reznor(Nine Inch Nails)が愛用したことでも知られる。NYのMoMA SFには永久コレクションとして収蔵されている。要するに、単なる音楽機材ではなくプロダクトデザインの傑作として評価されている機材だ。
新品定価は約7万円。生産は2022年に終了し、現在は中古市場でしか手に入らない。それが「使わないから」という理由で手元にやってきた。
手に取った瞬間の感触
まず驚いたのは軽さだ。これだけの機能が入っているのに、重さは500g以下。A4用紙より少し大きいくらいのサイズで、カバンに入れて持ち歩ける。
デザインが異様に美しい。白いアルミのボディに、橙・青・緑・灰色の4本のエンコーダーノブ。画面は小さいがドット絵のようなグラフィックが表示され、操作するたびに画面が変わる。見ているだけで楽しい。「この機材の前の持ち主はなぜ使わなくなったんだろう」と思うくらい、触っているだけで気分が上がった。
OP-1でできること
機能を全部説明しようとするとキリがないので、俺が実際にハマった使い方を中心に書く。
シンセ音源
Cluster、Dr. Wave、String、Digital、Phase、Pulseなど、個性的なシンセエンジンが複数搭載されている。それぞれが全然違う音の質感を持っていて、同じ機材で全然違う音楽が作れる。エンコーダーをぐりぐり回すだけで音が変形していく感覚が楽しい。
4トラック・テープレコーダー
OP-1の核心がこれだ。仮想のテープ上に4トラック分の音を重ねて録音できる。エフェクトをかけながら録る、テープスピードを変える、逆回転させる。デジタルなのにアナログテープの質感を再現した設計で、「テープに録る」という行為自体が音楽制作の一部になっている。
サンプラー
内蔵マイクで周囲の音を録音して、それをそのまま音源にできる。部屋の環境音、窓の外の雨音、コーヒーカップを置く音。なんでも楽器になる。
FMラジオ入力
ラジオで受信した音を直接サンプリングできる。電波の状態によってノイズが乗るが、それがまた面白い素材になる。OP-1でないとできない使い方だ。
加速度センサー(Gフォース)
本体を傾けると音が変わる。モジュレーションパラメーターにGフォースを割り当てると、機材を体で演奏できる。これを使いながらシンセを鳴らすと、楽器を「弾く」感覚が生まれる。
EP-40と比較して何が違うか
EP-40もOP-1も同じTeenage Engineering製だが、性格は全然違う。
EP-40は「ダブ・レゲエ専用機」だ。特定のジャンルに深く特化している分、そのジャンルの音が恐ろしく簡単に出せる。入り口が低い。
OP-1は「何でも作れる代わりに、何をすればいいか自分で決める」機材だ。自由度が高い分、最初は途方に暮れる。でも使えば使うほど、この機材の底が見えない感覚がある。テープに4小節録って、それにシンセを重ねて、エフェクトかけて、サンプルを挟んで——気づいたら2時間経っていた、ということが何度もあった。
「使わなくなる人」が出る理由がわかった
もらった相手がなぜOP-1を使わなくなったのか、しばらく使ってみてわかった気がした。
OP-1は「何かを作ろう」という意志がないと始まらない。ガイドがない、チュートリアルも少ない(公式マニュアルはあるが極めてシンプル)、ジャンルも制限されない。その自由さが、音楽制作の経験が薄い人には「何をしていいかわからない」になってしまう。
逆に言えば、EP-40やVoclaを触って「音を作る楽しさ」をある程度知っていると、OP-1の自由さが強みに変わる。俺にとってはちょうどそのタイミングだった。EP-40でダブを知り、Volcaでシーケンスを覚えてから、OP-1が来た。
中古市場ではいくらか
オリジナルOP-1は生産終了しているため、入手は中古のみだ。2026年現在、メルカリやヤフオクでは状態によって4〜7万円程度で出ている。新品定価の7万円とほぼ同水準か、状態が良ければそれ以上の値がつくこともある。希少性が価格を支えている。
「高すぎて買えない」という人には、後継のOP-1 fieldという選択肢もある。ただしこちらは新品で15万円超。ガジェットシンセの世界で一番高い入門書だ。
もらえる機材には、もらえる理由がある
EP-40もOP-1も、「使わないからあげる」という形で手元に来た。どちらも決して安くない機材だ。それが使われないまま眠っていた。
機材は使われてこそ機材だ。OP-1は今、毎晩触っている。4トラックのテープが少しずつ埋まっていく。何かになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも今、ちゃんと音を出している。それで十分だと思っている。
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