前回は「EP-40がきっかけでダブミュージックを知った」という話をした。その後、実際にダブを作り始めてから半年。最初の1ヶ月でわかったことと、今も試行錯誤しながら使っているコツをまとめる。
ダブを作るために最初にやったこと
EP-40を本格的に使い始めたとき「何から始めるか」という問題があった。ダブサウンドの要素は大きく3つ。重低音(riddim)、ディレイ・リバーブ、ドロップアウト(音を抜く)だ。
最初は単純なリズムから。EP-40に搭載されている RIDDIM SOUNDBANK のベースラインを選んで、ドラムパターンを重ねる。それだけで「ダブっぽい」空気が出てくる。ここが他のガジェットシンセとの違いだ。EP-40は「ダブを作ること」を前提に音が調整されている。
エフェクトの深さが全て
ダブは「原音よりもエフェクトが主役」という珍しいジャンルだ。EP-40の素晴らしさはここにある。リバーブのパラメータを深くかけると、音が完全に別世界に溶ける。

ディレイの時間を長くしすぎると、次のビートが来たときに音が重なる。そういう「失敗」も含めて、ダブの音響的な面白さになっている。
ダブを深く知った3枚のレコード
EP-40を手に入れる前、俺はダブのことをほとんど知らなかった。レゲエのサブジャンルだとは知っていたが、「ドラムとベースが重くて、リバーブがかかってる音楽」くらいの認識だった。それが180度変わったのは、3枚のアルバムと出会ってからだ。
最初に聴いたのがKing Tubbyの「King Tubby Meets Rockers Uptown」だ。Augustus Pabloとのコラボ作品で、1976年のリリース。最初の数秒で「これは音楽というより空間だ」と思った。ベースラインが沈み込み、ハイハットが霧の中から聞こえてくる。そしてメロディカ(鍵盤ハーモニカ)の音が、ディレイで宇宙の彼方に消えていく。「ダブエンジニア」というポジションがあることも、このアルバムで初めて意識した。King Tubbyはミュージシャンではなく、スタジオのエンジニアだ。それが主役のアルバムを出している。それだけで異質な音楽だと思った。
次に掘ったのがLee “Scratch” Perryの「Super Ape」(1976年)。こちらはもっとカオスで、ジャングルのような密度がある。パーカッションが大量に重なり合い、効果音や呪文のような声が随所に差し込まれる。ダブは「引き算の音楽」だと思っていたが、Perryのアプローチは「足し算でカオスを作り、それを素材にする」ものだった。「音楽ってここまで実験できるんだ」と素直に思った。
この2枚を繰り返し聴いてから、EP-40でのアプローチが変わった。「ちゃんと音楽を作ろう」ではなく、「空気を作ろう」という意識になった。そこからが本当のスタートだったと思う。
失敗がそのままダブになる
EP-40でダブを作り始めて一番おもしろいと思ったのは、「失敗が音楽になる」という感覚だ。
ディレイの時間を長くしすぎて、ビートが濁った。でもそれがそのまま「ダブの空間」になっていた。リバーブをかけすぎて音が溶けた。それも正解だった。普通のDTMなら「やり直し」になる操作が、ダブでは「それがデザイン」になる。
70年代のキングストンのスタジオエンジニアたちも、同じような発見をしながら音楽を作っていたんだと思う。ミキサーのフェーダーを思い切り動かし、偶発的に生まれた音響を録音する。あの時代の「誤魔化しようがないアナログの遊び」を、今は小さなガジェットで再現できる。それが面白い。
コントロールを手放す快感、というのが正確な表現だと思う。「こうしよう」と決めてから動くのではなく、機材に任せて偶然が何を生み出すかを待つ。結果に責任を持たない音楽制作。それがダブの核心だ。
自分の部屋でキングストンの空気を出そうとしている
今の俺の状況を正直に書くと、東京の狭い部屋でヘッドホンをして、EP-40のリバーブをいじりながら「70年代キングストンの空気を再現しよう」としている。客観的に見ると、かなり滑稽な光景だと思う。
でも真剣にやっている。それが今の俺の音楽との向き合い方だ。
ダブを知ってから、ジャマイカのキングストンとロンドンのブリクストンに行ってみたいという気持ちが生まれた。ブリクストンは70〜80年代にジャマイカ系移民が多く住んでいた地区で、UKダブシーンが育った場所だ。そこの音楽的な空気を実際に吸って、帰ってきてから作る音と、今作っている音は、きっと違う。そんな気がしている。
旅のモチベーションに音楽を使う、という楽しみ方が俺には合っている。「観光地を回る」より「この音楽が生まれた場所を見たい」という動機のほうが、行動力につながる。ジャマイカに行くのはまだ先の話だが、そこに辿り着いたときに「俺はダブを知っているな」という感覚で歩けるのが楽しみだ。
まとめ:ダブは「制御」より「遊び」
DTM・楽曲制作という文脈だと「完璧な構成」を目指す傾向がある。でもダブは違う。70年代のスタジオでエンジニアがミキサーをいじっていた、その自由さを再現することが目的だ。EP-40はそれをコンパクトに詰め込んでいる。
失敗を恐れない。コントロールを手放す。偶然に任せる。それがダブを作るときの唯一のルールだ。King TubbyもLee Perryも、同じことをやっていた。場所と時代は違えど、その感覚は変わらない。今夜も俺はヘッドホンをして、EP-40のリバーブを限界まで上げてみる。



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