モニターヘッドホンとリスニング用、両方持つ意味がやっとわかった

音楽・機材

「ヘッドホンなんて1本でいい。モニター用とかリスニング用とか、そんな細かい区別は趣味の世界の話だろ」——40代に入るまで、俺はそう思っていた。

今は机の上に2本のヘッドホンがある。Sony MDR-CD900STとSony WH-1000XM5だ。この2本の使い分けを覚えてから、音楽制作と音楽鑑賞、両方の質が別次元になった。

「1本でいい」と思ってた頃の話

DTMを始めた2年前、俺はaudio-technica ATH-M50x(約18,000円)を1本だけ持っていた。定番モニターヘッドホンとして評価が高い製品で、「これ1本あれば音楽制作も音楽鑑賞もできる」と信じていた。

制作した曲をストリーミングサービスにアップして友人に聞かせたとき、「低音がぼんやりしてる」と言われた。俺の耳にはしっかり低音が聞こえていたのに、なぜそう聞こえるのかが最初はわからなかった。

それからしばらくして、DTM仲間から「モニターヘッドホンとリスニング用は根本的に設計思想が違う」と教えてもらった。その話を聞いて、やっと腑に落ちた。

Sony MDR-CD900ST——これが「モニター」の意味

Sony MDR-CD900STは1989年に発売されて以来、日本のレコーディングスタジオで標準機材として使われ続けているヘッドホンだ。価格は15,000〜17,000円と手頃だが、プロの現場で何十年も使われ続けている実績がある。

このヘッドホンを初めて装着して音楽を聴いたとき、俺は正直「つまらない音だ」と思った。低音が強調されるわけでも、高音がキラキラするわけでもない。ただ、あるがままの音がそのまま聴こえてくる。

それが「モニター」の正体だ。

MDR-CD900STは音を「盛らない」。リスニング用ヘッドホンは低音や高音を強調して「気持ちよく聴こえる」ように設計されているが、MDR-CD900STは一切そういう味付けをしない。だからミックス作業に使うと、余計な音が出ていないか、音が偏っていないかが正確にわかる。

俺が最初に制作した曲の「低音がぼんやりしてる」問題も、MDR-CD900STで確認すると原因がすぐわかった。低域の特定の帯域が過剰になっていて、それが他の帯域を濁らせていた。モニターヘッドホンなしにはわからなかった問題だ。

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Sony WH-1000XM5——「楽しむ」ための道具

一方のSony WH-1000XM5(市場価格:税込42,000〜45,000円)は、完全にリスニング専用だ。

業界最高クラスとも言われるノイズキャンセリング性能が最大の特徴だ。新幹線の中、カフェの雑音の中、いずれの環境でも外部音をほぼシャットアウトして音楽に集中できる。バッテリーは最大30時間持つので、長距離移動でも充電を気にしなくていい。

音のチューニングは明らかに「楽しく聴こえる」方向に設定されている。低音はほどよく強調され、ボーカルが前に出てくる。制作した曲をWH-1000XM5で聴くと「気持ちいい」と感じるが、それは現実の音ではなくソニーが味付けした音だ。だからこれを使ってミックス作業はできない。

用途は完全に分かれている。制作・確認にMDR-CD900ST、外出先でのリスニングにWH-1000XM5。この使い分けを意識するようになってから、制作品質も鑑賞の満足度も上がった。

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合計6万円の出費をどう捉えるか

MDR-CD900STが約16,000円、WH-1000XM5が約43,000円。合計で約59,000円の出費になる。

だが俺の経験で言えば、モニターヘッドホンなしに音楽制作を続けていたら、何十時間もかけて作った曲が「外では聴き劣りする」というループを繰り返すことになる。時間の無駄が積み上がる計算だ。

それに、WH-1000XM5のノイズキャンセリングは「音楽を聴く」以外の場面——オンライン会議、集中作業——でも圧倒的に役立つ。1日のうちで使う時間が長い道具に投資することは、コストではなく生活の質への投資だ。

この一品

モニター用に「Sony MDR-CD900ST」、リスニング用に「Sony WH-1000XM5」。この2本を机に並べる日が来るとは、2年前の俺には想像もできなかった。

「1本でなんでもこなせる」という考えは効率的に見えて、実は両方中途半端になるだけだ。目的を分けて道具を選ぶ。それが本当の意味での合理的な買い物だと、今は確信している。

正しい道具を持てば、見える世界が変わる。それを体験するための投資を、俺は後悔したことがない。

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    ここからは完全に余談になるんだけど、モニターヘッドホンで音楽を聴くと、最初は「なんか面白みがない」と感じるんだよね。低音が強調されず、全体がフラットで、いわゆる「気持ちいい音」ではない。でもしばらく使い続けると、その正確さが心地よくなってくる。

    これは音楽との向き合い方の変化だ。楽しむための音楽と、分析するための音楽が共存できるようになる。リスニング用で感情的に音楽を楽しみ、モニター用で構造を理解する。両方持つことで、音楽との関係が立体的になる。

    世の中的な問題として、ノイズキャンセリングイヤホンの普及で「音楽を聴く」習慣が増えた一方で、音楽を「ながら聴き」する人が大多数になっているというのがある。音楽を深く聴く機会が減ることは、音楽文化全体の厚みを薄くするかもしれない。モニターヘッドホンで音楽と向き合う時間を意図的に作ることは、消費者としてではなくリスナーとして音楽を楽しむ習慣につながる。道具を変えると、向き合い方まで変わる。

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